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image 花山天文台における系外惑星観測

2017年1月より花山天文台において系外惑星観測を行っている。 系外惑星とは、太陽系外の恒星の回りを公転している惑星のことを意味し、 現在まで約4000個の系外惑星が発見されている。 系外惑星はその直径によって木星型、海王星型から地球型まで分類される。 現代天文学において系外惑星が非常に脚光を浴びているのは、 ホット・ジュピター(高温木星型)と呼ばれる主星のすぐ近くを 巨大な木星サイズ(地球直径の約10倍)の惑星が回っているような太陽系とは まったく異なる惑星系の存在が明らかになったことや、 液体の水が存在できるような軌道を回っている地球型の惑星が発見されたことによる。 地球型惑星に液体の水が存在しているならば、生命の存在が期待される。

花山天文台における系外惑星観測は、株式会社高橋製作所及び文部科学省宇宙航空技術推進委託費の支援を受けて、 学生の研究教育活動を担う目的で始められた。右図に現在の系外惑星観測システムを示す。 花山天文台露場にあるスライディングルーフ観測小屋に、口径13センチの屈折望遠鏡が2台設置されている。 屈折望遠鏡は対物レンズによる集光を行っているため、 反射望遠鏡のように鏡筒が開放されておらず2次鏡による光の回折現象もないため星像が安定している。 屈折望遠鏡には冷却CCDカメラが取り付けられている。望遠鏡の動作及びCCDカメラによる撮像は、 花山天文台新館にある観測室から遠隔操作される。撮影した画像は、 花山天文台のコンピューターネットワーク内のデータストレージシステムに記録され、京都大学キャンパスからもアクセス可能である。

image 京都市近郊にある花山天文台で系外惑星観測を始めるにあたって一番気になったのは、 天候と光害の問題である。今回の系外惑星観測は、トランジット法と呼ばれる観測法を使っている。 トランジット法は、系外惑星が主星と地球の間を通過する時に主星からの光を 惑星本体が遮蔽することによって起きる減光を観測する。 水星や金星が太陽面を通過する現象を地球から時々観測することができるが、 これが系外惑星系で起こっていると思っていただければ良い。 私たちが観測しているのは、先に述べたホット・ジュピター型の系外惑星によるトランジットである。 既知のトランジットの追試観測の場合は、トランジット開始1時間前から撮影を開始し、 トランジット終了後1時間で撮影を終了する。全体の撮影時間は、短いトランジットの場合で約4時間、 長いトランジットの場合は約6時間に及ぶ。この観測時間中に約1パーセントの光度変化を捉えるために、 快晴の空が必要になる。左図は、2018年12月現在まで2年間の55回の観測を月毎にまとめたものである。 年間を通じて2回の観測に適した時期があることが分かる。 最も適しているのは冬から春にかけての時期で、 次に適しているのは秋から冬にかけての時期である。 梅雨のある6月中旬から7月にかけては観測に適さないのは分かるが、 8月は夜間の雲量の多さのためにこの2年間1回の観測もできなかったのは驚きである。 2018年は2017年に比べて約2倍の観測が行われているのは、専任観測員の出口雅規氏の系外惑星観測活動への参加による。

image 花山天文台では月のない快晴時、肉眼による最微光星は約3等星であり、 京都市及び山科市からの光害が厳しい。しかし、実際にCCDカメラで夜空を撮影すると、 30秒露出で約15等星まで記録することができる。 光害は銀河や星雲のように面積のある天体の観測におおきな影響を与えるが、 星のような点光源にはそれほど影響を与えないのが分かる。 既知のホット・ジュピターの主星は10から13等星が多いので、 現在の観測システムでほとんどのホット・ジュピター天体が観測可能である。

系外惑星観測を学生の研究教育活動に使うために、 宇宙ユニット活動に参加している学生から観測ボランティアを募集している。 現在までの55回の観測に参加した学生は、延べ約50人である。 通常の一晩の観測では、学生ボランティア1~2名が参加し、 教員又は観測員から望遠鏡及びCCDカメラの操作訓練を受けながら、その夜の全観測をこなす。 右図はこのようにして観測されたWASP-43と呼ばれるホット・ジュピター天体の光度曲線である。 WASP-43はろくぶんぎ座にあり、ホット・ジュピターが周期0.81日で公転している。 図中の水色の領域は、トランジット予報時間である。 観測減光等級は、2017年4月22日が0.025等級、 2018年3月10日が0.032等級と予報値の0.029等級と良く一致している。 しかし、2017年4月22日のトランジット時間は予報時間より短く、 2018年3月10日のトランジット開始は、予報よりも早く始まっていることが分かる。 このようなトランジット時間の変動が周期的に観測される場合は、 未発見の惑星によって起きている可能性もあり、より継続的な観測が必要である。

トランジット法の利点は、 1回の観測結果からその系外惑星についていろいろな物理量を推定できることである。 減光率はそのまま主星と系外惑星の面積比を示しており、 主星の直径が分かっていれば、系外惑星の直径が計算できる。 トランジット時間の計測からは、ケプラーの第3法則と円軌道を仮定することによって、 軌道半径、公転周期、軌道傾斜角を求めることが可能になる。 主星からの距離が分かることによって、惑星表面の温度の推定も可能である。 このように、系外惑星の観測とその物理量の推定は、 宇宙を志す大学生にとって科学的探究を体験でき、 同時に現代天文学の最先端に触れることのできる絶好の教育機会であると考えている。

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上段黒字は学生による計算値。下段青字は下記論文からの引用値:
・WASP-43: Heller, C., et al. 2011, A&A, 535, L7
・XO-5: Pál, A., et al. 2009, ApJ, 700, 783
・HD189733: Bakos, G. Á., et al. 2006, ApJ, 650, 1160
・WASP-36: Smith, A. M. S., et al. 2012, AJ, 143, 81

表は、2018年9月に花山天文台で行われた第2回有人宇宙学実習(宇宙ユニットNEWS 2018年10月号)において、 3人ずつ4つの班に分かれて計算してもらった系外惑星の物理量である。 計算に使われた観測結果は、すべて花山天文台で得られたものである。 学生による系外惑星物理量推定値は、文献値とかなり近い値を得ることができている。 系外惑星観測と観測結果の解析が、学生教育に有効であることを証明している。

宇宙ユニットは2018年秋より、 今までの観測データを使って新しい系外惑星を探す系外惑星探査活動を開始した。 そのための学生ボランティアを現在募集している。 探査活動参加希望学生に対して、これまで3回の系外惑星探査講習会を実施した。 学生による探査活動では、宇宙ユニット実験室に設置された端末を使い、 画像処理プログラムを利用して、観測画像中のすべての星の光度曲線を取得する。 非常に地道な活動であるが、未知の変光星の発見の可能性もあり、 発見の感動を味合うことのできるプロジェクトである。 観測活動においても、2台の望遠鏡のうち1台を使い、 銀河面に沿って新しい系外惑星発見のための掃天を開始している。

宇宙ユニットは、また、総合生存学館と協力して、 2019年度にアリゾナ大学附置実験研究施設であるバイオスフィア2において有人宇宙学実習を行う予定である。 そのために、バイオスフィア2に花山天文台にあるのと同様な系外惑星観測システムを設置したいと考えている。 バイオスフィア2はアリゾナ州ツーソン郊外に位置しており、 天体観測に非常に適した環境を持っている。 アリゾナ大学と協力して系外惑星観測システムが運用できるならば、 学生教育ばかりではなく、系外惑星研究においても非常に大きな成果を挙げることができると期待される。

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