2022年度第10回宇宙学セミナー(2023年2月28日)
第10回 2023.2.28 (火) 15:00-16:30
講師:清水 右郷 氏(京都大学/日本学術振興会)
題名:「研究の自由の科学哲学——地上の医学の状況から宇宙学を見上げる」
開催方法:Zoomによるオンライン形式
Zoom接続方法:こちらよりご登録・ご参加ください.
概要:
研究の自由は一般に尊重されるべきものと考えられているが、よく考えてみれば、多くの疑問が残っている。そのような疑問は、特に医学に目を向けると際立つ。というのも、医学では研究の自由を手放しには認め難いからである。
例えば、医師が危険な人体実験を自由に行う権利を持つとは思えない。医療情報を使うだけで人体への直接的危害はない研究でも、医師たちが思いつくまま患者の医療情報を研究利用してよいかと言えば、すぐには首肯しかねるのではないだろうか。また、大学病院に所属する医師が医学研究をするのは当然だとしても、市中の一般病院や、医療機関外の者でも、同じように医学研究を行って当然と言ってよいだろうか。これは決して浮世離れした問いではない。実際、個人情報保護法の規定では、「学術研究機関等」に該当するかどうかによって医療情報の研究利用の要件が異なる。
このように研究の自由への疑問が生じ始めると、研究の自由という概念の不明瞭さに気づくだろう。そもそも、研究の自由はなぜ確保されるべきなのだろうか。一般的には、研究の自由の確保は、研究の多様性をもたらし、それによって真理追及を促進すると語られている。しかし、自由と多様性と真理追及が直線的につながっているというのは本当なのだろうか。例えば、研究者個々人の自由な選択が逆に分野内の研究の偏りをもたらしたり、多様性の尊重という名目で質の低い研究まで許容されることが逆に真理追及を阻害するという可能性はないだろうか。こうした可能性を含めて、研究の自由の認識論的側面は、科学哲学にとって興味深い検討テーマである。
本報告では、医学を題材に、研究の自由にまつわる一般論を再検討する。それを通じて、宇宙学という新しい領域において、研究の自由がどのようにあるべきかを探りたい。